グレートバリアリーフは瀕死、でも基金は詐欺?どうなるオーストラリアの世界遺産

Great Barrier Reef

オーストラリア近海にある世界最大のサンゴ礁グレートバリアリーフは、地球温暖化や公害などの影響で死滅の危機に瀕しています。グレートバリアリーフを保護する動きも活発化している一方、オーストラリア政府からの44,330万豪ドル(約364億円)もの巨額の助成金を受け取った保護基金「グレートバリアリーフ・ファウンデーション」は大企業幹部や政治家の関与が明らかになり、助成金の不正受給の疑いが報道されています。ユネスコの世界遺産でありながら「危機遺産」の指定の可能性もあるグレートバリアリーフの現状と、環境保護をめぐる動きについてまとめました。

2,600キロのサンゴ礁、グレートバリアリーフ

その美しさから旅行者に人気のグレートバリアリーフ(大堡礁)は、オーストラリア北東部クイーンズランド(QLD)州沿岸の珊瑚海に位置する巨大なサンゴ礁地帯です。その全長は2,600キロ以上と、日本列島(約3,500キロ)の70%超。

400種の色とりどりの美しいサンゴでできた無数の暗礁と島から成るグレートバリアリーフは、クジラやイルカ、ウミガメ、ジュゴンなど数多くの海洋生物や海鳥の棲み家となっています。グレートバリアリーフの島々には固有種を含む2,000種以上の植物も生育するなど、その地になくてはならない生態系の一部なのです。

ちなみに、サンゴは刺胞動物と呼ばれる動物の一種で、クラゲやイソギンチャクと同じ分類です。

世界遺産から危機遺産へ?

サンゴ礁そのものだけでなくそのエリアの生物多様性や海の美しさは、グレートバリアリーフを有するQLD州、ひいてはオーストラリアの観光業の象徴にもなっています。スキューバダイビングやシュノーケリング、遊覧船でのツアーなどを楽しむ旅行先として有名である一方、同エリアの環境破壊の深刻化も取り沙汰されています。もしグレートバリアリーフがなくなれば棲み家をなくし命を落とす生物もいると考えられ、生態系のバランスが崩れることで、他の生物への影響もあるかもしれません。

1981年、ユネスコはグレートバリアリーフを世界遺産(自然遺産)に登録。しかし現在グレートバリアリーフは危機遺産(危機にさらされている世界遺産)への登録寸前です。環境汚染や開発などにより価値が損なわれつつある世界遺産は危機遺産リストに登録され、問題が解決されればリストから外されますが、問題が深刻化し価値が失われた場合は世界遺産登録を抹消されます。

グレートバリアリーフは2017年に一度、危機遺産のリスト入りが検討されました。ユネスコの世界遺産委員会は白化現象を重く受け止めており、グレートバリアリーフの保全状況についての報告書を201912月までにまとめるようオーストラリア側に要求しています。つまり、期限までに状況改善が見られない場合、危機遺産に指定される可能性が濃厚ということです。

参考:CNN JAPANグレートバリアリーフ、危機遺産に入らず ユネスコ

温暖化や公害でサンゴ礁が死滅の危機

Great Barrier Reef with small fishes
サンゴ礁は「海の熱帯雨林」とも呼ばれるほど豊かな生態系を作っている(Image: Pixabay)

グレートバリアリーフの環境破壊の最大の問題は、白化現象(Coral bleaching)によるサンゴの死滅です。その原因として、気候変動による地球温暖化が挙げられています。なんと、全体の50%で白化現象が起きているほか、北部1,000キロ地帯に限定すれば90%がすでに白化しています。

グレートバリアリーフのサンゴは褐虫藻(かっちゅうそう)と呼ばれる植物プランクトン(藻類)と共生しており、この褐虫藻が光合成によって作り出す酸素と栄養素によりサンゴは生かされています。

しかし地球温暖化による海水温の上昇で褐虫藻が弱ると、サンゴは褐虫藻の消化を加速したり排出したりするためサンゴと共生する健康な褐虫藻が減少します。また、排出能力をオーバーすると弱った褐虫藻がサンゴ内部に蓄積されることが、最近の広島大学の研究などで明らかになっています。この研究報告によると、「褐虫藻の全体密度の低下」と「弱った褐虫藻の蓄積」が、サンゴの白化につながっていると推測しているとのこと。

こうした理由から温暖化がサンゴの死滅につながっているようで、サンゴが白化して死滅すると魚などが住みつかなくなり、海鳥やウミガメなども減少します。この白化現象は沖縄の海のサンゴなどにも起きているそうです。

白化状態が長く続くとサンゴは死滅してしまいます。しかし短期間のうちに回復することができれば、再生の可能性があるため、グレートバリアリーフも今のうちに白化を食い止めることが重要です。

グレートバリアリーフ最大の困難といわれる白化現象のほかにも、以下のような問題が起きています。

  • 水質汚染
    熱帯性の洪水が起きるたび、河川から海へ土砂が流れ込みサンゴ礁が汚染。石炭採掘・開発化学肥料殺虫剤を含む農業用地や過剰放牧農地からの表面流出、都市排水による水質汚染などが原因といわれています。本来であれば汚染を食い止める河口域や沿岸部の湿地の減少も、海洋汚染の拡大につながっています。
    また、洗剤歯磨き粉に含まれるマイクロ・プラスチック(マイクロビーズ)も海に流れ込み、生態系に悪影響を与えています。
  • オニヒトデによる食害
    水質汚染による海の富栄養化で、オニヒトデが大量発生していることもグレートバリアリーフの破壊につながっています。オニヒトデはサンゴを餌として食べるため、生態系のバランスを取るには駆除と同時にオニヒトデが増えすぎないきれいな水質を整えることが必要です。

このほか、現在は規制されているものの漁業による生態系破壊、度重なる船舶事故によるサンゴ礁の損傷や重油汚染1960年代のエリア内での石油掘削などにより、グレートバリアリーフはこれまでにもダメージを被ってきました。

グレートバリアリーフの自然は、数万年前から周辺エリアに住んでいたオーストラリア先住民族(アボリジニーやトレス海峡諸島民)にとっては文化的象徴の1つでもあり、その破壊を招いている温暖化や公害などの環境問題に現代人が負うべき責任は重いといえるでしょう。

巨額の助成金を受給した「偽物」の保護団体

オーストラリアのターンブル政権(当時)は今年4月、44,330万豪ドル(約364億円)の助成金をグレートバリアリーフ・ファウンデーションという小規模な環境保護団体(基金、財団)に拠出しました。当時、同団体にはパートタイムを合わせてたったの10人前後のスタッフしか在籍しておらず、巨額の助成金を受給する団体としてはあまりに不自然です。助成金の名目は水質改善事業などの費用でしたが、

  • 政府助成金として1つの環境保護団体に拠出された過去最高の金額
  • しかも政府は資金調達の入札プロセスを経ずに同団体への拠出を決定

という2点が問題になり、そこからグレートバリアリーフ・ファウンデーションそのものの「怪しさ」が次々と地元メディアによって5月頃から指摘され始め、上院議会による調査でその背景が明らかになってきました。

大手企業と政府の癒着が明らかに

オーストラリア公共放送ABCの時事問題などをコメディ仕立ての再現ドラマ風に伝える番組「Tonightly With Tom Ballard」で8月に放送されたこの映像は、Facebookページでは投稿後2カ月弱で99万回も再生されました。

映像内にもあるように、グレートバリアリーフ・ファウンデーションの幹部はBHPビリトン、シェル(Shell)、ピーボディー・エナジー(Peabody Energy)など資源採掘やエネルギー系の大手企業の人物で構成され、会長はエッソ(Esso)の前社長。地球温暖化を助長する事業を推進する事業者ばかりで「本当に環境保護事業を?」と思わずにいられないメンバーですが、さらに驚くべきことにはグレートバリアリーフ・ファウンデーションの申請書類にはこれらの会社名の記載が全くなかったとのこと。事実が正しく告げられていないにも関わらず、巨額の助成金がオーストラリア連邦政府から拠出されました。

この時点で疑われるのはこれらの大手企業と政府との癒着です。助成金を出すために、あえて作られた団体と考えるのが妥当でしょう。数億ドルもの助成金は、オーストラリア居住者の税金で賄われています。

ちなみに映像タイトルにある「Dead Shark Tank」ですが、shark(サメ)はスラングで達人、企業家、投資家などの意味で使われることもあり、つまり「死んだサメの水槽」=「腐敗した企業家たち」といったところでしょうか。余談ですがアメリカのABC放送には「Shark Tank」という番組があり、シャーク(投資家)たちの前でベンチャー起業家がプレゼンを行い投資を仰ぐというもののようです。

助成金受給のために設立された団体?

https://www.facebook.com/GetUpAustralia/videos/1074679566043939/
さらにABCの番組「Insiders(インサイダーズ)」は8月、グレートバリアリーフ・ファウンデーションについて連邦政府のジョシュ・フライデンバーグ環境大臣(当時)を招いてトークを行い、その映像を公開しています。オーストラリアの活動家団体「GetUp!(ゲットアップ)」が字幕付きで同映像の編集版を投稿していました。

環境相は「グレートバリアリーフ・ファウンデーションは最適で素晴らしい団体。我々政府は慎重に判断した」と述べていますが、それに対し番組ホストの男性は「自分たちの満足のために?入札もなしに?」と鋭く指摘。それに対し環境相はただ「我々の省庁は非常にクリアに手続きを行った」と返答しています。

また、「以前の理事会メンバーであるマイケル・マイヤーは、大手企業と資源採掘産業によるファウンデーションの活動への影響の拡大について話していた」「もしそうだとしたら、ファウンデーションはグレートバリアリーフへの拠出をコントロールしている団体ということか」と番組ホスト。環境相はそれを否定し、「決定は科学的見地から行われた。関連会社が理由ではない」。

しかし番組ホストは、企業に対する環境活動家の採掘反対運動への対応コストのために助成金を出すことが目的とわかっていたように考えられる、など次々と厳しい追求を繰り出し、環境相はたじたじ。

地球温暖化を進行させる資源採掘業を守るために助成金を割り当てることが目的であったとしたら、グレートバリアリーフ保護とは真逆の行為です。資源採掘業はオーストラリアの一大産業ですが、世界が目指す温暖化防止のトレンドとは逆行した産業でもあり、オーストラリアの自然保護と両立できない開発事業を行っていることから、地元市民や環境保護団体などから反対の声が上がっています。そうした背景を踏まえ、国民を欺くようにして別の用途の助成金を割り当てるというのがグレートバリアリーフ・ファウンデーションの設立目的だったのかもしれません。

上の映像のフルバージョンはこちらABCはオーストラリアの公共放送ですが、メディアとしてなかなか強気なので税金が無駄になっていない気がします。

ABCによると、巨額の助成金拠出が行われる数週間前の4月、ターンブル首相とフライデンバーグ環境相(いずれも当時)はグレートバリアリーフ・ファウンデーションのジョン・シューバート会長の3人だけで会合を行ったこともわかっています。一体何を話し合ったのでしょうか。

その後8月、与党の党首戦をめぐる混乱でターンブル政権は解体。背景には与党の支持率低下や、ターンブル氏が「気候変動対策のための排出量削減政策の打ち切り」を発表したことなどがあるといわれています。温暖化ガスの排出規制をやめれば、採掘業界はビジネスをやりやすくなるわけでなどと憶測もしやすい状況です。

グレートバリアリーフ・ファウンデーションへの巨額助成金問題が発端で政権が解体したとは、表向きには特に言われていないようですが、真実はいかに。

続く調査、環境汚染は未解決

827日をもってターンブル前首相は議員辞職、新たな与党自由党の党首には元財務相のスコット・モリソン氏が就任し、自動的にオーストラリアの新首相が誕生しました。上の映像で環境相だったフライデンバーグ氏は財務相に就任しています。

一連の出来事の流れは以下の通り。

  • 4月前半:グレートバリアリーフ・ファウンデーション会長、首相、環境相が会合
  • 4月後半:同団体が巨額の助成金を受給
  • 5月〜:同団体の不正疑惑が報道される
  • 8月:ターンブル元首相退陣、モリソン新首相誕生

首相退陣劇の盛り上がりで、グレートバリアリーフ・ファウンデーションの不正問題報道は一時下火になってしまった印象がありました。しかし調査は継続されており、野党である労働党グリーンズ(緑の党)は、グレートバリアリーフ・ファウンデーションに拠出された4億4,330万豪ドルは返却されるべきと主張しています。返却されたあかつきには、透明性のある入札プロセスを経て最適な団体に再分配をしたい考えです。

Great Barrier Reef
上空から見たグレートバリアリーフ(Image: Pixabay)

地元紙シドニー・モーニング・ヘラルドの927日の報道によると、上院の調査委員会により新たに以下のような事実がわかったようです。

  • グレートバリアリーフ広報キャンペーンにかかった金額(1,000万ドル)の口外は禁じられていた
  • ファウンデーションのマネージングディレクターは、政府系の海洋研究機関に1億ドルの資金提供の連絡をしていた。
  • ファウンデーション側は5月、ハミルトン島(グレートバリアリーフ内)の高級リゾートに約40人の政財界の要人を招待した。メンバーには、カンタス航空CEOコノコフィリップス東オーストラリア社長、 グーグル・オーストラリアのマネージングディレクター、BHPビリトン会長、GEオーストラリアCEOのほか、政府機関CSIROやグレートバリアリーフ海洋公園の会長なども含まれていた。
  • 政財界の要人がファウンデーションに年間2万ドルを支払えば、資金の用途に口を出せる「名前だけの役員」になれる計画だった。

高級リゾートでの接待という贈収賄にまで国民の税金が使われていたということで、グレートバリアリーフ・ファウンデーションが不正な組織であることは火を見るよりも明らかです。オーストラリアの豊かな自然の象徴ともいえるグレートバリアリーフを守る団体として、政府助成金のほかに一般からの寄付も受け付けていたようで、既に寄付を行った個人や企業の善意は徹底的に踏みにじられてしまいました。グレートバリアリーフ・ファウンデーションへの不正追求と処罰は、関わりのある企業幹部や政治家すべてに対して行われるべきでしょう。

政府や経済界がこのような欺瞞に興じている間にも肝心のグレートバリアリーフの白化は進み、今この瞬間にも生態系は壊れつつあります。自然を壊しているのは、人間の生活や企業活動が生み出す気候変動や公害。単に美しい観光資源を守るという意味ではなく、人間もまたグレートバリアリーフや海の生態系に連なる生物の1種であることを自覚し、せめて個人のレベルでは何が本当に大切なものかを見失わずにいたいものです。

1件のコメント

  1. はじめまして(^^♪
    20年くらい前に、グレートバリアリーフ、行ったことがあります。
    とても美しい海で感動した記憶があります。
    いつまでも美しいまま、残って欲しいものです(^.^)

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