海にもインスタにも映える野外アート展スカルプチャー・バイ・ザ・シー(シドニー)2018まとめ

Sculpture by the Sea, Bondi 2018 / Photo: HeapsArt

シドニーの晩春から初夏を彩る海辺の野外彫刻展「スカルプチャー・バイ・ザ・シー」が、2018年も10月末〜11月初頭にかけて開催されました。オーストラリア国内だけでなく海外の彫刻家も参加し、日本人アーティストの作品も多数展示。第22回目の今年展示された彫刻作品と、「ソーシャルメディア映え」のトレンドがアートに及ぼす影響、そしてオーストラリア西海岸パースでの2019年のスカルプチャー・バイ・ザ・シー開催概要をまとめて紹介します。

スカルプチャー・バイ・ザ・シーとは?

Coastal Walk - Tamara Beach side by HeapsArt
スカルプチャー・バイ・ザ・シーの会場となる海沿いの遊歩道、タマラマ・ビーチ側からの眺め

スカルプチャー・バイ・ザ・シー(Sculpture by the Seaは1997年にシドニーで始まった、世界最大級の無料の野外彫刻展です。展覧会の特徴は何といっても、ボンダイ・ビーチからタマラマ・ビーチにかけての海岸沿いの美しい景色をバックに作品が展示されることでしょう。スカルプチャー・バイ・ザ・シーで展示されるアート作品は、青い海や空、または新緑や岩肌を背景に設置されることが想定されたサイトスペシフィックなものが多く、その時・その場所ならではの楽しみ方ができます。

毎年、国内外から選出された100以上のアーティストの作品が3週間にわたって展示され、連日多くの人が訪れるボンダイのスカルプチャー・バイ・ザ・シー。会場となるのはコースタル・ウォークと呼ばれる約1.8キロの起伏に富んだ海岸沿いの遊歩道です。ファミリーやペット連れも多く、穏やかな雰囲気の中で気軽にアートを楽しめます。

‘Moebius in Moebius’ by Keizo Ushio, Sculpture by the Sea, Bondi 2018 / Photo: HeapsArt
同展の常連アーティスト牛尾啓三氏の「Moebius in Moebius」

スカルプチャー・バイ・ザ・シーには毎年、日本からも多数のアーティストの作品が出展されています。メビウスの輪をモチーフにした石の彫刻を手がける兵庫県の彫刻家・牛尾啓三氏は、20年にわたり同展に参加し、名誉作家として殿堂入りも果たしています。

参考:「世界で活躍する彫刻家 牛尾啓三氏インタビュー」(Nichigo Press

2018年の展示作品

2018年のスカルプチャー・バイ・ザ・シーは既に終了してしまいましたが、会期を通じて一般参加者の投票が行われ、閉幕と同時にアワードの受賞作が発表されました。

上の作品は「キッズ・チョイス・アワード」で子供たちに最も選ばれた、「ホライズン(地平線)」という大型作品。作者のムー・ボヤン(牟柏岩、Mu Boyan)は国際的に活躍する中国の現代彫刻家で、今作のような太った裸のヒトをモチーフにした作品を多く制作しています。中国では太っていることは富や栄華の象徴だそうですが、ムー・ボヤンの作品は幼子のような無垢な表情や仕草が特徴です。

今回のスカルプチャー・バイ・ザ・シーを取り上げたニュースやアート系メディアでは、この「ホライズン」の写真が最も多く使われていた印象です。海を背景に座り込んだ巨人の姿はインパクト大で、作品の前で写真を撮る人が順番待ちをしていました。

一般の鑑賞者の投票による「アレンズ・ピープルズ・チョイス・アワード」に輝いたのは、ジリー&マーク・シャットナー(Gillie and Marc Schattnerというアートユニットの「Come Out, Come Out, Wherever You Are」。「どこにいても出ておいで」のタイトルが示すように、象やトラなど絶滅の危機に瀕する動物が地下の穴から這い出してその存在をアピールしているような作品でした。

ジリー&マーク夫妻はシドニーを拠点に活動する現代アート作家で、犬など動物をモチーフにした作品を数多く制作しています。

そして、スカルプチャー・バイ・ザ・シーのメインスポンサーであるシドニーの不動産開発企業アクアランドによる同展最大の賞「アクアランド・スカルプチャー・アワード」に選ばれたのは、上のジェームズ・パレット(James Parrett)の「M-fortysix」という作品でした。ジェームズ・パレットはオーストラリア南部ビクトリア州のアーティストで、ステンレスなどの金属を使った曲線的な彫刻作品が特徴です。

この作品は、政府機関であるシドニーハーバー・フェデレーション・トラストに恒久展示されることが決まっています。同アワードでは毎年こうした抽象的な作品が選ばれる傾向があるようです。

このほか、100を超える展示作品がウォーキングコースに沿って展示されましたが、今回のスカルプチャー・バイ・ザ・シーは作品の設置が遅れ、筆者が会期の最初の週末に訪れたときにはまだ工事車両や作業スタッフが地面を掘り返した跡が見えるなど、一部の作品が設置途中という状態。オーストラリアらしいスケジュールの遅延かと思ったのですが、開幕直前に大雨が数日続いたことで作業がズレ込んでしまったとのことでした。というわけで全作品を見られず終いでしたが、気になった作品を以下に写真で紹介します。

アキラカマダ氏(オーストラリア)の「Refuse」は枝や蔓を編んだ小屋のような繊細な作品
'Walking' by Wei Wang, Sculpture by the Sea, Bondi 2018 / Photo: HeapsArt
ウェイ・ワン(Wei Wang/中国)による巨大な「Walking」は5メートル長のブロンズ像
April Pine 'Shifting Horizons' Sculpture by the Sea, Bondi 2018 / Photo: HeapsArt
エイプリル・パイン(April Pine/オーストラリア)の「Shifting Horizon」は、見る角度で印象が変わる人型の作品
Barbara Licha 'CBD', Sculpture by the Sea, Bondi 2018 / Photo: HeapsArt
シドニーで活動するポーランド出身のバーバラ・リーチャ(Barbara Licha)による「CBD」は、シドニー市街地の風景がモチーフ
‘Flame’ by Sally Stoneman, Sculpture by the Sea, Bondi 2018 / Photo: HeapsArt
サリー・ストーンマン(Sally Stoneman/オーストラリア)の「Flame」。よく見ると内部が炎心のような二重構造に

スカルプチャー・バイ・ザ・シーは入場無料の野外アート展なので朝から夜まで鑑賞可能で、天候や時間帯により、光の加減などで作品が違った表情になるのも魅力です。

現代のアートとソーシャルメディア

当記事でピックアップしたものは個人の趣向によるため、たまたま見た目に地味めな作品が多いのですが、実際にスカルプチャー・バイ・ザ・シーの会場ではカラフルだったり分かりやすい具象モチーフだったりとパッと目を引く作品もたくさんありました。スカルプチャー・バイ・ザ・シーに限ったことではないのですが、傾向として、昨今のアート展はインスタグラムなどのソーシャルメディアに投稿したときにインパクトを持つような、いわゆるインスタ映えを意識した展示方法なりラインナップなりを感じることも少なくないです。

それと同時に、報道するメディアでもまた、ウェブや紙面上に写真を載せたときにインパクトの強い作品がピックアップされがち。それを見た人が会場を訪れ、同じ作品を撮影し…という不思議な循環が生まれています。さながら旅行のガイドブックに載っている有名な場所を訪れ、ガイドブックと同じ構図で写真を撮るツーリストのようなイメージでしょうか。それが悪いということではないのですが、ソーシャルメディアやメディアの存在がアート展、そしてアート制作にも大きな影響を及ぼしているのかもしれないと思うシーンではあります。

現代の美術シーンとソーシャルメディアの関係性について、昨年、アメリカの展覧会についてですが面白い記事がありました。

参考:「インスタ映え」する美術展が増殖中──Instagram時代に変容する「新しいアートのかたち」が見えた(WIRED.jp

写真を撮って投稿するために美術館を訪れる人々について、記事の中で学芸員の1人が「まるで、美術館での体験に関する一人称視点の物語です。わたしはとても興味があります。」と述べているのが印象的です。撮って拡散という、一見して他者や社会を意識した行動のようでありながら、「個」の枠を強く感じさせるトレンドでもあります。

アートの楽しみ方は自由で特に決まりはなく、鑑賞者が100人いれば100通りの楽しみがあって良いもの。その上で、個人的にはアートの面白さは、見た人に何かを考えさせたり、感覚を刺激するところにあると思います。時代と呼応し共鳴しながらアートはどこへ向かうのか、潮流を眺め考えるのもまた楽しみ方の1つでしょう。もしかしたら近代、現代の美術の次は「ソーシャルメディア時代」かもしれません。

2019年、パースのコテスロビーチでも開催

スカルプチャー・バイ・ザ・シーは毎年3月、オーストラリアのインド洋沿岸(西海岸)の都市パースにあるコテスロビーチでも開催されます。2005年に始まったコテスロ展は70以上の彫刻作品を展示し、東海岸のシドニーとはまた違った海辺の雰囲気を楽しめるイベントとして知られています。2019年の出展アーティストなどは公式ウェブサイトで順次発表されるもようです。

Sculpture by the Sea (Cottesloe)
会場:西オーストラリア(WA)州パース、コテスロビーチ(Cottesloe Beach)
日程:2019年3月1〜18日
Web: https://sculpturebythesea.com/cottesloe/

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