シドニービエンナーレ7会場鑑賞の最適ルートガイド、日本人作家の作品も

シドニー市内7カ所の会場で、現代アート展「第21回ビエンナーレ・オブ・シドニー(Biennale of Sydney)」が3月16日から始まりました。各会場のアーティスト作品と、会場の特徴・アクセス方法、見て回りやすいルートなどを、実際に鑑賞した体験を基に紹介します。

ビエンナーレ・オブ・シドニーでは、6月11日までの約3カ月間にわたり、オーストラリアだけでなく世界中の気鋭のアーティストによる作品を全て無料で鑑賞できます。今回は注目の日本人現代アーティストも5人参加し(コカトゥー島、NSW州立美術館、4Aセンター)、ユニークな作品を展示しています。

コカトゥー島

Cockatoo Island
コカトゥー島、フェリー乗り場付近

コカトゥー島(Cockatoo Island)はシドニー湾に浮かぶ小さな島で、サーキュラーキー駅に隣接するサーキュラーキー・ワーフから、公共のフェリーで約20分。2010年に島全体がユネスコの世界遺産に登録されています。

かつてコカトゥー島には1800年代から監獄や刑務所、少年院が設けられていたほか、20世紀を通じて船渠(ドック。船舶の修理、建造を行う施設)が置かれ海軍の駆逐艦や巡洋艦などの建造が行われていました。コカトゥー島での海事産業は1992年に停止し、数年後からフェスティバル会場やキャンプやグランピング施設などとして開放が始まっています。その後、歴史上の重要なエリアとして世界遺産やオーストラリア囚人遺跡群に登録されました。

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コカトゥー島の敷地内

コカトゥー島には今も造船施設の面影のある廃墟が残されており、その一部を使ってビエンナーレの24作品が展示されています。都会的に整備されたシドニーCBDとは違う、明るくも少し侘しい雰囲気がアート作品を引き立て、他の展示会場とは一線を画す趣きがあります。今回、メディアで話題のアイ・ウェイウェイの大型作品もコカトゥー島に展示中です。

小さな島と言っても作品をじっくり見て回るなら1時間半〜2時間くらいあるとベターです。展示数が多く場所が分かりにくいこともあるので、ボランティアスタッフに尋ねるか、会場入口で販売されている公式ガイドブック(5ドル)に掲載されているマップを頼りにすると良さそうです。

Cockatoo Island

オーストラリア現代美術館(MCA)

Museum of Contemporary Art Australia
オーストラリア現代美術館(MCA)

MCAの略称で親しまれるオーストラリア現代美術館(Museum of Contemporary Art Australia)は、サーキューラーキー駅から徒歩2分の距離にあり、オペラハウスの対岸に位置します。ビエンナーレの会場を見て回る際、コカトゥー島の前後に行きやすい立地です。なお、同美術館は日本語だと「シドニー現代美術館」とも呼ばれるようです。

常設展や企画展とは別のフロア(レベル1とレベル3=地上2階と4階)をビエンナーレ作品18 点の展示会場として使っています。新館と旧館をつなぎ合わせた建物の外観の面白さもさることながら、常設展示の見せ方も優れた美術館です。館内の無料WiFiを使って専用アプリをダウンロードすれば音声ガイドも楽しめます。

Museum of Contemporary Art Australia (MCA)

  • 住所:140 George Street, The Rocks NSW 2000
  • 時間:10AM〜5PM、水曜のみ〜9PM
  • 交通:Circular Quey駅から徒歩2分
  • 出展アーティスト一覧
    Brook Andrew
    Marc Bauer
    Marjolijn Dijkman
    Simryn Gill
    Chia-Wei Hsu
    Sosa Joseph
    Jacob Kirkegaard
    Yvonne Koolmatrie
    Tuomas Aleksander Laitinen
    Liza Lou
    Tom Nicholson
    Ciala Phillips
    Svay Sareth
    Maria Taniguchi
    Esme Timbery
    Nicole Wong
    Haegue Yang
    Yarrenyty Arltere Artists
  • 公式サイト:https://www.mca.com.au

オペラハウス

Sydney Opera House
オペラハウス(Sydney Opera House)

シドニーを象徴する建築でもあるオペラハウス(Sydney Opera House)が、今年はビエンナーレ会場の1つになっています。MCAの対岸にあり徒歩10分程度の距離で、コカトゥー島の前後に訪れたい会場です。

オペラハウスの出展アーティストは2人だけですが、そのうちの1人は日本でも2013年に個展を開いたイギリス出身のオリバー・ビア。作曲と美術の学位を持ち、彫刻から映像まで様々なアートフォームで視覚と聴覚の両方に訴えかける作品で知られています。

もう1人のライヤン・タベットはレバノン出身。現在彼が暮らし創作の拠点としているレバノンの首都ベイルートとシドニーの劇場建築のつながりをモチーフにした作品を展示しています。

Sydney Opera House

NSW州立美術館

Art Gallery of NSW
NSW州立美術館(Art Gallery of New South Wales)

荘厳な雰囲気が特徴のNSW州立美術館(Art Gallery of New South Wales)は、常設作品の一部にビエンナーレの展示作品を溶け込ませた展示をしています。ビエンナーレの作品だけを見て回ろうとすると探すのが大変なので、館内の案内板か公式ガイドブックを参考にしましょう。

NSW州立美術館はシティ(タウンホール駅付近など)から目の前までの公共バスが走っています。最寄りのビエンナーレ会場であるオペラハウスからNSW州立美術館までは徒歩19分の距離で、公共交通で行くなら「サーキュラーキー駅からセントジェームズ駅まで電車+徒歩8分」または「オペラハウスから徒歩15分+王立植物園内から441バスで2分」となります。暑くて歩きたくない日はタクシーやウーバーが良いのでは。

なお、同美術館では6月24日までフランスの連作タペストリー「貴婦人と一角獣」が見られる展覧会、その名も「The lady and the unicorn」を同時開催中。

The Lady and the Unicorn
「貴婦人と一角獣」展 @NSW州立美術館

こちらは有料の企画展ですが、フランス国宝でもある「貴婦人と一角獣」という貴重な作品が見られるとあって人気のようです。

ビエンナーレ展示の詳細は以下の通り。個人的にはサムソン・ヤングという香港の作家と、インドの作家N.S.ハーシャの作品、そして過去のシドニービエンナーレのポスターなどを比較したアーカイブ展示も面白かったです。

Art Gallery of New South Wales

  • 住所:Art Gallery Road, The Domain, Sydney NSW 2000
  • 時間:10AM〜5PM、水曜のみ〜10PM
  • 交通:St James駅から徒歩8分、またはQVBなどから441バスで美術館前下車
  • 出展アーティスト一覧
    Eija-Liisa Ahtila
    Sydney Ball
    Oliver Beer
    Miliam Cahn
    Francisco Camacho Herrera
    Cercle d’Art des Travailleurs de Plantation Congolaise (CATPC) with Baloji and Renzo Martens
    Roy de Maistre
    Lili Dujourie
    Luciano Fabro
    Marlene Gilson
    N.S. Harsha
    Prabhavathi Meppayil
    Kate Newby
    Noguchi Rika(野口里佳)
    Sa Sa Art Projects
    Semiconductor
    Roy Wiggan
    Riet Wijnen
    Samson Young
  • 公式サイト:https://www.artgallery.nsw.gov.au

アートスペース

Artspace, Sydney
アートスペース(Artspace, ギャラリー)

NSW州立美術館から徒歩5分ほどの距離にあるギャラリー「アートスペース(Artspace)」。2年前の前回ビエンナーレに引き続き、こちらも会場となりました。NSW州立美術館の正面玄関を出て右に進むとすぐに右折する歩道があるので、そこを進んだ先に以下の写真のような下り階段が現れます。

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NSW州立美術館の裏手にある下り階段

階段を降りたらNSW州立美術館を背に道路沿いにまっすぐ歩き、道路を渡って1〜2分で到着します。同じ道沿いにあるアーチ型の入口から中に入ります。

Artspace
アートスペース(入口)

NSW州立美術館ほど広い会場ではありませんが、しっかり見るなら1時間くらいあると良いかもしれません。アイ・ウェイウェイの作品と、中国の作家ゲン・シュエの粘土を使ったビデオ・インスタレーション(19分)が心に残りました。

Artspace

  • 住所:43 – 51 Cowper Wharf Road, Wolloomooloo, Sydney NSW 2011
  • 時間:月〜金11AM〜5PM、土・日11AM〜6PM、3/30(金)休
  • 交通:Kings Cross駅から徒歩15分、またはTown Hall(Park Street, Stand G)からバス311で「Bourke St at Nicholson St」下車徒歩1分
  • 出展アーティスト一覧
    Ai Weiwei
    Michaël Borremans
    Tiffany Chung

    Geng Xue
    Tanya Goel
  • 公式サイト:https://www.artspace.org.au

4Aセンター・アジア現代アート

4A Centre for Contemporary Asian Art
4Aセンター・アジア現代アート(4A Centre for Contemporary Asian Art)の看板

4Aセンター(4A Centre for Contemporary Asian Art)は、チャイナタウンにも近いシドニーのヘイマーケットにある小さなアートギャラリーです。電車のセントラル駅から徒歩8分、または車道を走るライトレールのキャピタル・スクエア駅で下車して目の前と、どこから行くにもアクセスしやすい立地です。

NSW州立美術館からバスと徒歩で約20分、アートスペースからは30分、また最もシティから離れた会場であるキャリッジワークスから距離的に一番近いので、同じ日に訪れても良いかもしれません。

4A Centre for Contemporary Asian Art - Biennale of Sydney 21st
4Aセンターの外観

会場は地上1階と2階に分かれており、ここにはビエンナーレ期間中、2人の作家の作品が展示されています。2階に展示中の日本人アーティスト・高山明さんの映像作品は、世界各国の歌と詩のパフォーマンスで多文化国家オーストラリアらしさを味わうことができとても興味深かったです。なんと合計250分(!)という長尺の大作ですが、ところどころを見ても楽しめる作りになっていたので何度かに分けて鑑賞しても良いかもしれません。

4A Centre for Contemporary Asian Art

  • 住所:181–187 Hay Street, Sydney NSW 2000
  • 時間:火〜金11AM〜5PM、木曜のみ〜8PM、土・日11AM〜4PM、3/30(金) 休
  • 交通:Central駅から徒歩8分、またはライトレールでCapital Square駅下車徒歩1分
  • 出展アーティスト一覧:
    Akira Takayama(高山明)
    Jun Yang
  • 公式サイト:http://www.4a.com.au

キャリッジワークス

Carriageworks
キャリッジワークス(Carrigeworks)

キャリッジワークス(Carrigeworks)は元・貨車の倉庫を改築したモダンな大型イベントスペースで、レンガ造りの外観と打ちっぱなしのコンクリートの内装が特徴です。フラットなスペースを生かしたダイナミックな作品が映えます。

キャリッジワークスは、セントラル駅から南西に1駅のレッドファーン駅から徒歩8分。バスも複数の路線を利用できますが、いずれもバス停からは徒歩8分ほど。前述の4Aセンターとの間はバスまたは電車で20分程度でした。

キャリッジワークスはファッションウィークや音楽コンサート、芝居などコンテンポラリーなイベントに多く使われており、前回のビエンナーレでも会場の1つとなりました。毎週土曜には新鮮や食材や花を買えるファーマーズマーケットを開いており、多くの人で賑わっています。

Carrigeworks

  • 住所:245 Wilson St, Eveleigh NSW 2015
  • 時間:10AM〜6PM、3/30(金)休
  • 交通:Redfern駅から徒歩8分
  • 出展アーティスト一覧:
    Chen Shaoxiong
    Sam Falls
    Marco Fusinato
    Laurento Grasso
    Nguyen Trinh Thi
    Semiconductor
    Michael Stevenson
    George Tjungurrayi
  • 公式サイト:http://carriageworks.com.au

ビエンナーレ鑑賞ルートは?

ビエンナーレは見どころが多く会場も7つに分かれているため、1日で全会場を回るのは難しそうです。駆け足で1.5日、ゆったり見るなら2〜3日かけて、以下のようなルートをお勧めします。

1.5日コース

<1日目>
-午前-
オペラハウス(9AM着)
コカトゥー島
-午後-
MCA
4Aセンター
キャリッジワークス(6PM閉館)

<2日目>
NSW州立美術館
アートスペース

2日コース

<1日目>
-午前-
コカトゥー島
-午後-
MCA
オペラハウス

<2日目>
-午前-
NSW州立美術館
アートスペース
-午後-
4Aセンター
キャリッジワークス

3日コース

<1日目>
コカトゥー島
MCA
オペラハウス

<2日目>
キャリッジワークス
4Aセンター

<3日目>
NSW州立美術館
アートスペース

シドニーは秋ですが会場間の移動などで日差しが強く暑いことも多いので、帽子やサングラス持参をお勧めします。特にコカトゥー島は日なたの移動が暑かったです…。島内は足元がやや悪い場所もあるので歩きやすいフラットシューズで行くと良いでしょう。

また、広い会場では作品の展示場所が分かりにくいものもあり、ガイドブックが非常に役立ちました。作品やアーティストの解説も載っています。

Guidebook for 21st Biennale of Sydney
ビエンナーレの公式ガイドブック

なお当ページに記載した各会場のアーティスト名に、作品レビュー記事を順次リンクさせていく予定です。今回の参加アーティストは全70組なのでいつ全て書き終えられるのか分かりませんが、ビエンナーレの会期が3カ月あるのでその間には…。