ハッシュタグ(#)で見るオーストラリア・デーの過ごし方、先住民族とオージーの関係

1月26日はオーストラリア・デー(Australia Day)というパブリックホリデー(国民の祝日)でした。オーストラリア・デーは日本の建国記念日のように「国家」の始まりを祝う日とされていますが、これに反対する声もあがっています。

今年の1月26日のオーストラリアでは実際に人々はどんなことをして過ごしたのか、白人や先住民族それぞれの胸にどんな思いがあったのか、短文型SNSツイッター(Twitter)に多く登場した話題を意味するハッシュタグトレンドワードを基に様々な意見や見解について考えてみます。

オーストラリア・デーの始まり、そして今

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まず、前提となるオーストラリア・デーそのものについて。1788年の同日に、イギリスからの第1船団(First Fleet)が植民を目的としてシドニーのポートジャクソン湾に到着。国をあげてこれを祝うのがオーストラリア・デーで、国内各地で記念式典が催されます。

しかし先住民族にとっては外部から侵略者がやって来た日であることから、国民全員にとってのお祝いの日ではないとして、この日をインベーション・デー(Invasion Day、侵略の日)と呼ぶ動きや、日にちを変更すべきという動きも起きています。

1月26日、豪州のTwitterでバズったキーワード

上の画像は、ツイッター上で多くの人が呟き(投稿)に使用したキーワードをまとめたサイト「ついっトレンド(Twittrend」の、2018年1月26日8時(おそらく夜)のオーストラリアの情報です。ハッシュタグ(#)の他、多く使用された言葉(トレンドワード)も込みでランキング化されています。このトップ10の中で、オーストラリア・デーに関連のあるキーワードをピックアップしてみましょう。

何をして過ごすのが一般的?

堂々の第1位は「#AustraliaDay」。祝日なので「家族でBBQ」「イベントに参加」といった出来事について投稿する人、既存のオーストラリア・デーの在り方に賛成/反対する人、それぞれの意見や動きを紹介するニュースのアカウントなども、このハッシュタグを使用していました。

Australia National Flag
オーストラリアの国旗

毎年この日には「オーストラリアン・オブ・ザ・イヤー」という日本の国民栄誉賞にあたるアウォードの受賞者が発表され、ツイッターのキーワードではトップ10中8位の「#ausoftheyear」として話題になっていました。

このアウォードは各分野で優れた功績を挙げたり、国家やコミュニティーに貢献したオーストラリア市民を国が表彰するもの。科学者やスポーツ選手、芸能人、ビジネスリーダー、社会活動家などが選ばれることが多く、選出はナショナル・オーストラリアデー委員会という政府系の運営機関が担当しています。

今年2018年は、量子物理学者のミシェル・イボンヌ・シモンズ教授(Professor Michelle Yvonne Simmons)が受賞。

同アウォードの「ローカルヒーロー部門」には数学教師のエディー・ウー氏、「ヤング部門」にはサッカー選手のサマンサ・カー氏、「シニア部門」には科学者のグレアム・ファーカー博士が選ばれました。

スポーツも盛り上がったオーストラリア・デー

第3位の「#OzDay10k」は、シドニーで毎年開催されている「国際車いすレース」のこと。その名の通り世界中の選手が参加する大会で、オーストラリアでは数あるスポーツの1つとして観客も大いに盛り上がります。今年の男子部門の優勝者は、東京パラリンピック日本代表候補の鈴木朋樹選手でした。

第9位の「#MCYvNew」は、フットボールAリーグ(サッカー1部リーグ)のメルボルン・シティ対ニューキャッスル・ジェッツの試合を指しています。会場となったメルボルンのAAMIパークには8,000人近くの観客が詰めかけ、各地のパブなどでも多くの人がテレビ中継で観戦。結果は2-2の引き分けでしたが、スポーツ観戦を楽しむのは祝日のオーストラリア・デーの割と一般的な過ごし方のようです。

「侵略された側」の声

Aboriginal flag
アボリジニの民族旗

オーストラリア・デーに国内のツイッターで多く使われた言葉の第2位は「#InvasionDay」、侵略の日。ヨーロッパから来た白人に土地を奪われ迫害され、独自の言語や文化を失いながら人権の不平等な状態を長く強いられてきた先住民族にとって、1月26日はお祝いの日ではありません。

なお、これまで彼らの呼称としてアボリジニという言葉が広く使われてきましたが、差別的な響きであることから、最近は「アボリジナル」や「オーストラリア先住民(Indigenous Australians)」という呼び方が一般化しつつあります。

第5位の「Alexis Wright」はオーストラリアの作家アレクシス・ライトのこと。白人の父と先住民族の母を持つ彼女は、オーストラリアで最も名高い文学賞であるマイルズ・フランクリン賞の受賞者で、先住民族の作家という立ち位置です。

アレクシス・ライトは1月26日、メディア大手ザ・ガーディアン紙オーストラリア版のウェブサイトに「Hey, Ancestor!(祖先よ)」と題したパワフルな詩を発表。先住民族の存在感を訴えかけるもので、この詩が先住民族のみならず多くの人々の間で話題となりました。

1月26日を侵略の日と考えているのは、先住民族だけではありません。オーストラリアに暮らす白人や移民にも「侵略の日であるという事実を認めるべき」と考える人がおり、残念ながら統計データはありませんが、少なくとも#InvasionDayというハッシュタグがトレンドの2位に入るほどであるのは間違いありません。

「先住民の土地」に住む

人気キーワードのランキングには入りませんでしたが、侵略の日という言葉と共にたくさん見られたのが「#AlwaysWillBe」というハッシュタグ。

多言語の公共放送局であるSBSと先住民族のテレビチャンネルNITVは「あなたは、先住民族の土地だった場所に住んでいる」として、現在の主要都市が侵略前は何という地名だったかをまとめた地図と記事を発表。例えばシドニーは「Eora Nation」、ブリスベンは「Yuggera」で、それを紙に書き写真を撮って投稿しようと呼びかけるソーシャルメディア・キャンペーンを開始しました。

これに賛同した人々は例えば「I am on Yuggera #AlwaysWillBe(私はYuggeraにいます。これからも)」などと書いた写真を次々に投稿。地域の評議会(カウンシル)のアカウントなどもハッシュタグをつけた投稿で賛同の意思表示をしていました。

「Always will be(これからも)」のハッシュタグを「これまでも、これからも」とアレンジしたらしい「#AlwaysWasAlwaysWillBe」も見かけました。これらのタグは個人アカウントだけでなく、ニュース通信社などのメディアなどのアカウントでも取り上げられていました。

また、オーストラリア・デーの日付変更を主張する「#ChangeTheDate」のハッシュタグも使われました。

各地で抗議行動も

オーストラリア各地では、オーストラリアの「建国」を祝うイベントや記念式典が執り行われる一方で、オーストラリア・デーの在り方に抗議するデモ行進や集会も行われました。

メルボルンなどでのデモはあまりの人出の多さだったため安全を期して警察が出動した他、シドニーでは1人の男性が国旗に火をつけようとしたため危険な行為として逮捕されました。ただデモは基本は平和的に実施され、警官と抗議者が挨拶を交わす場面などもあったようです。

首相からのメッセージ

オーストラリア・デーの在り方を問い直す動きは年々高まっていますが、オーストラリア政府からこれに対する公式な見解は出されておらず、26日、オーストラリアのマルコム・ターンブル首相の公式ツイッターアカウントでは「オーストラリアン・オブ・ザ・イヤー」を祝うコメントが1件あったのみでした。

翌27日の国際ホロコースト記念日(ホロコースト犠牲者を想起する国際デー、United Nations International Holocaust Remembrance Day)には、アウシュビッツの犠牲者を悼み世界がホロコーストの悲劇を繰り返さないために力を尽くすというターンブル首相からのメッセージが公式サイトに発表されました。このメッセージの中では「ここオーストラリアでは、我々は多様で調和の取れた社会を誇りに思っています。しかし、差別や恐れ、不信が起こることを警戒し続ける必要があります。」と述べられています。

 

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