【アート】オーストラリアで現代フィリピン作家の展覧会「Passion and Procession」@NSW州立美術館

1月7日までシドニーのNSW州立美術館(Art Gallery of NSW)で開催されていた、フィリピンの現代アートの展覧会に行ってきました。
ものすごい熱量と、繊細かつプリミティブなパワー溢れる作品の数々。特に印象的だったアートワークなどを紹介します。

展示会のタイトルは「Passion and Procession」、情熱と前進。なんとも熱い題名ですが、内容も負けじと劣らず熱かったです。

Do you have a rooster, Pedro?

会場に足を踏み入れると、数メートルの幅のある大きな絵が。

何やら禍々しいというか、おどろおどろしいというか、ダークな雰囲気の巨大な絵画。ダークなのですが、でもどこかポップな印象もあり、そのマッチングが絶妙なインパクトを与えます。

近づいて部分を見てみると、更にインパクト大です。

ニワトリ怖いし、内臓ぶら下がっているし、首とれてるし、モンスターが口開けてるし……という具合に禍々しいモチーフで構成されています。それなのに、色使いや線の描き方など、どこかポップで可愛らしくて、ファンタジーな感じです。

作者はRodel Tapaya(ロデル・タパヤと読むのでいいんでしょうか)。作品名は「Do you have a rooster, Pedro? (Adda Manok Mo, Pedro?) 」(2015-16)、NSW州立美術館の所蔵作品です。

心臓、髑髏……死のモチーフ

更に会場内に入っていくと、「禍々しいけどポップ風味」な作品が色々ありました。

さまざまなフィリピン人アーティストによるドクロや心臓といったモチーフを使った作品がいくつもあり、今のフィリピンのアート界のトレンドなんでしょうか、それとも伝統的にそういうモチーフを使う習慣があるのか、たまたまそういう作品が集まったのか。

全体的に、死や生をテーマとして感じさせる作品が並んだ印象でした。といっても日本など仏教が背景にある国の「輪廻転生」とか「諸行無常」といった死生観や人生観とはちょっと違う感じです。

というのも、フィリピンは東アジアで一番のキリスト教国。スペインの植民地だった時代にキリスト教が広まったそうで、今もクリスチャンが多いんですね。人名もキリスト教式にミドルネームを持つ人が多いとか。

これはNona Garcia(ノーナ・ガルシア、という読み方で合っているといいのですが)の「Recovery(回復)」。60枚のレントゲン写真を組み合わせて作られた作品です。

作者の両親が病院を経営していたことが、こうした創作に影響しているようですが、それにしてもレントゲン写真って改めて見ると綺麗。青白く透き通っていて、病気や怪我、そして死を連想させつつ、妙な美しさがあります。

Marina Cruzの描く生命

この展覧会で一番印象に残ったのが、Marina Cruz(マリーナ・クルーズ、読み方があっているか毎度わかりません)というアーティストの作品です。

展示されていた3作品の全てが、衣服など布地の油絵。服を着た人、ではなくて、生地のテキスタイルデザイン、でもなくて、服の布そのものを描いた作品で、その発想も新しく感じられました。生で観られて良かった。

布の質感、糸や織りの違い、ひだや皺、洗ったことで出る手触り、そういったディテールが狂おしいほど丁寧に描かれていて、人間そのものをモチーフにしていないのになんだかとても人間、というか生命力を感じます。

マリーナ・クルーズの作品で特にこの「Nesting Pattern」という黒字に黄色っぽい油絵が良かったです。

彼女の祖母が、彼女の母やその兄弟姉妹のために作った服をモチーフにしているそうで、それは彼女にとって3世代に渡る家族の肖像のようなもの。それを nesting =入れ子 のようにまとめた、どこか懐かしい感じの作品です。

そのフォルムは女性器のようでもあって、ヒトが生まれ、生命が連なっていく、というイメージが伝わってきます。

モチーフの中にある布地の鳥や蛇っぽい柄も、野生や原始の生命を感じさせますね。

これまでフィリピンの現代アートを全く見たことがなかったのですが、今回の展覧会はすごく楽しめました。ダークでポップで現代的、そしてプリミティブな生命力に溢れており、他の作家のアートワークも色々見てみたくなる、そんな展覧会でした。

https://m.artgallery.nsw.gov.au/exhibitions/passion-and-procession/

NSW州立美術館はこうして時々アジア各国のアートを取り上げた複合展覧会をやっているようです。だいたい無料で、写真も撮り放題ですごい。

以前、日本の現代アート展では宮島達男やチームラボ、森村 泰昌などを所狭しと飾っていて、かなりの充実度だったと記憶しています。

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