「同性婚」法案、オーストラリアで可決。来年1月からゲイカップルも結婚可能に

シドニーに並んでいた同性婚投票「イエス」のフラッグ

南半球のオーストラリアでは今年2017年12月8日、同性同士のカップルの結婚を認める法案が前日7日に連邦議会(国会)での賛成過半数を得て可決したことを受け、正式に同性婚を合法化しました。国として同性婚を合法化するのは、世界で24カ国目だそうです。英語では「same sex marriage」と呼ばれ、通称「gay marriage」という人もいます。日本語では「同性婚」が一般的ですね。

オーストラリアで、ゲイやレズビアンのカップルの結婚が合法化に至った経緯をまとめてみました。

そもそも同性婚って?

文字通り、今までは異性間(法的な意味での男女間)でしか認められていなかった婚姻という法的システムを、同性間にも適用することを認める法律です。

オーストラリアは元々自由な気風が強いので、同性カップルが手をつないで歩いている姿もごく普通に見かけますし、同性カップルの事実婚(ディファクト)も法的に認められています。法的に認められたディファクトの同性カップルが養子を育てることも可能です。

社会的にも、ゲイだから、LGBTQIだからという理由で人をおおやけに差別すれば、差別した側が非難されるというのが公式な対応。国会議員にも企業の要職にも同性愛者であることを公表している人は少なくありません。

毎年、2〜3月にはシドニーでマルディグラ(Mardi Gras)という、同性愛者やトランスジェンダーのための世界最大規模のお祭りが3週間にわたって開かれます。一度、同イベントのパレードに行ってみましたが、自由で開放的なムードに包まれており、その一方で多くの人が「性」の在り方の違いによって虐げられたり自殺したりしているという事実も突きつけられました。同性愛やトランスジェンダーの存在は、大きなイベントとして訴えかけなければならないこと、だということなのですから。

とはいえ、これまでオーストラリアでは「結婚」制度はあくまで異性カップルのためのものとして、同性カップルには認められていませんでした。

もちろん、伝統的な価値観に基づいて「ゲイなんておかしい」と嫌悪感を露わにする人もいます。そのため、ゲイであってもそれを隠して生きている人もいるなど、異性愛者よりも同性愛者には生きにくさが当たり前のようにあるのです。多様性を認めるマルチカルチュラル(多文化主義)なオーストラリアでも、こうした状況はあります。

でも、同性愛者が生きにくいのは当たり前であるべきなのでしょうか?

なぜゲイ・カップルの事実婚はOKで結婚はNG?という声は以前からありましたが、オーストラリアでも古くからの結婚観は法律にも反映されたままだったというわけです。伝統的な価値観を大切にするキリスト教会や、保守派の人々からの同性婚反対の声もまた、根強くありました。

LGBTQIをめぐる各国の対応

しかし時代は2000年代。世界の国・地域では、同性間にも結婚の権利を認めるよう求める動きが高まっていますし、実際に同性婚を認めている国もあります。

日本では数年前に、東京都渋谷区や北海道札幌市がパートナーシップ制度を開始しました。これは法律ではないので婚姻(結婚)はできませんが、同性カップルが同制度の利用を申し込めば、その自治体は「2人を夫婦のような関係だと認めます」という制度です。

渋谷区のパートナーシップ制度は2015年11月からスタート。タレントの一ノ瀬文香さんと女優の杉森茜さんがこの制度を利用したことで話題になり、2人が白いウェディングドレス姿で撮った写真などもメディアをにぎわせました。日本で同性愛を公表することは勇気のいることだったかもしれませんが、テレビなどのメディアに出る仕事をする人が公表することで、「同性愛は公表しても良いことなのだ」という認識を世間に生み出すことができたはずです。

この制度、証明書を見せることで2人の関係性を証明できるそうなのですが、実際にそれを「夫婦と同等」と認めるかどうかは相手次第なのだそうです。

例えば、日本ではアパートやマンションなど不動産の賃貸などを申し込む際に名義人と同居する人との関係性を証明する必要があり、法的な夫婦や家族なら問題ありませんが、友達同士や婚約前のカップルというだけで大家さんや不動産屋さんに断られることもあります。

法的に認められた間柄でない、ということを理由に賃借を拒否することが認められているということです。つまり、パートナーシップ制度の証明書を見せても、貸主側が「それは夫婦じゃない」と言えばそれまで。ということで、このパートナーシップ制度に疑問を呈する声も多いのですが、超・保守的な日本の自治体が同性カップルの存在を公式に認めたというだけでも大きな前進であることは間違いありません。

オーストラリアの「同性婚」合法化

シドニーに並んでいた同性婚投票「イエス」のフラッグ
シドニーの金融街マーティンプレイスに並んでいた同性婚投票「イエス」を表したレインボーカラーのフラッグ。民間団体などではなく、シドニー市が掲げていたもの(2017年10月頃撮影)

オーストラリアの同性婚に話を戻します。今年11月までに、オーストラリア連邦政府は国民(有権者)に同性婚についての賛否をイエスまたはノーで答える「郵便投票」を実施。日本語のニュースで投票と言っていますが、実際には「postal survey(郵便調査)」で、アンケートに近いもの。世論調査です。

とはいえ世論を直接調査して政治に影響を及ぼすものなので、反対派は「ノーと書け」、賛成派は「イエスと書け」と、それぞれがキャンペーンを展開して大騒ぎになりました。郵便投票実施の前から、新聞に同性婚関連のニュースが載らない日はありませんでした。

郵便投票の経緯

投票期間中は、家の壁に「You can say no(ノーと言っていい)」と大きくペンキで書く人がいたり、その後ろに「… to pinapple on pizza!(ピザにパイナップルを載せることにね!)」と付け足すユーモアで応酬する人がいたり。

賛成派の人の中には、同性愛やトランスジェンダーといったLGBTQIカルチャーの象徴である虹色の旗(レインボーフラッグ)をベランダや窓に掲げている人もいました。「Vote YES(イエスに投票を)」「Say yes to love(愛にイエスを)」といったメッセージも多く見られました。

当事者にとって同性婚の合法化は、パートナーを愛する気持ちが結婚という法的に認められる形に他ならないわけですから、「ただ人を愛していて、相手がたまたま同性だというだけで、なぜ結婚できないのか」という主張になるわけです。彼らにとって同性婚にイエスと言うことは、人を愛することそのものを平等に肯定すること、だから「愛にイエスを」という言葉になるんですね。

この郵便調査用紙が発送されてから回収期日までの期間、「Yes」といえば同性婚賛成、「No」といえば同性婚反対という意味だと即座に通じるほど、バーやレストラン、小売店など町中のあちこちでメッセージを見かけました。イエスの方をたくさん見かけた印象です。賛成者が多かったということなのか、(異性間にしか婚姻を認めない法律に対しての)カウンター側であるイエス勢が強く主張をしていたということかは分かりません。

ただ、個人主義な国ですし、移民が多い国(=多国籍国家)でもあるため差別にはとても敏感なので、個人攻撃などはご法度。賛成派と反対派で衝突というような話は、少なくともニュースでは聞かなかったです。

ちなみに、大手企業も同性婚への賛成を表立って発表していました。元々、オーストラリアの大手航空会社カンタスや大手銀行ANZなどは前述のイベント「マルディグラ」のオフィシャルサポーターです。郵便投票に際しても「自由で平等なオーストラリア」を実現するようCEOなどがメッセージを出していました。

政治家の中からも、両方の意見が出ていました。マルコム・ターンブル首相は賛成派ですが、前首相のトニー・アボット議員は反対派。他にも、反対派のキリスト教団体から「同性婚の郵便投票は違憲だ」といった意見も出るなど、政治的にも様々な反応がありました。

同性婚「イエス」が61.6%

11月中に集計された郵便投票の結果は、有効票のうち賛成派は61.6%でした。反対派を上回る結果となり、この結果自体に法律を変える拘束力はないものの、同性婚法案の前進に大きくはずみがついた形となりました。

投票を実施したオーストラリア統計局によると、投票したのは有権者の79.5%。結構高い数字ですね。このうち賛成派は約780万人、反対派は約490万人だったそうです。

この発表がなされた11月15日、集計結果を伝える街頭モニターなどの前には賛成派の人が多数集合し、発表の瞬間、歓喜に満ちた人々の姿は BBCなど世界各国のメディアで報じられました。レインボーの旗が振られ、何十年もこの日を待っていたであろうカップルが涙を流してキスを交わす姿などは、当事者でなくても目頭が熱くなるものがありました。

オーストラリアの歌手でゲイの人々にも大人気のカイリー・ミノーグはこの日、自身のツイッターアカウントで「 「」というハッシュタグにハートと万歳マークを付けたツイートを投稿し、「 Love is love, always was love, always will be love.」(愛は愛、今までも愛はいつも愛だったし、これからも愛はいつも愛)と、同性婚賛成派に温かいメッセージを送っていました。

この日の夜、シドニーのアイコンであるオペラハウスは虹色にライトアップされました。元々、シドニー市はCBDのマーティンプレイスなどに「YES」のフラッグを掲げていたので(市が意見表明をしているということは、恐らく税金で)、オペラハウスのライトアップもシドニー市の手によるものかと思います。自治体がそんな風に意見をはっきり表明するというのは、日本ではあまり感じられないことだったので、とても新鮮でした。

議会で可決、いよいよ合法化

そして12月7日、連邦議会で同性婚法案が可決しました。公共放送ABCのニュースには「賛成多数で可決」と書かれており、トニー・アボット前首相ら数人の議員は棄権したそうです。

<公共放送ABCニュースの公式Twitter>

<公共放送ABCの記事>

http://www.abc.net.au/news/2017-12-08/same-sex-marriage-legal-after-gg-approval/9239334

そして翌日8日、同法はオーストラリアで正式に承認されました。

同法を適用した同性婚に限らず、オーストラリアでの婚姻手続きは1カ月前の申請が必要です。そのため、1カ月後である1月9日には最初の同性夫婦が誕生可能ということになりました。

ちなみに、これまでに既に海外で結婚手続きをしている同性カップルについては、即日、国内でも「法的な夫婦」として承認するそうです(夫婦、という言葉がこの場合正しいか分からないのですが、今のところ日本語でカップルというと未婚の恋人同士という意味合いが強い気がするので)。

なお、法案は無修正で可決されました。議決前には、婚礼関連の商品を扱う小売店などに対し同性カップルへの商品販売を拒否する権利を付与するといった話も出ていたそうですが、実現していないようです。

ターンブル首相は同性婚の合法化が成立後、「この法律の変更は、宗教的自由や伝統的な結婚の考えを危険にさらすものではない」と発言。同性婚が成立したからといって、同性婚を認めないキリスト教などの存在や考えを否定したり虐げたりはしないとの意志を表明しました。

ところで、とても素朴な疑問ですが、同性愛のキリスト教徒はどうしているんでしょうか。キリスト教の伝統的な教義は同性カップルを認めないそうなので、同性愛者は隠しているか脱会するのでしょうか。あくまで予想ですが、教義と自身の性の在り方の間で、苦しい思いを抱えている人もいるのではないかと思います。

なお、同性婚の合法化を受け、Twitter や InstagramなどのSNSには「」「」「」などのハッシュタグが溢れました。

ゲイカルチャーはどうなる?

同性婚が合法化されたことで、オーストラリアはますますLGBTQIの人にとって生きやすい国になることが予想されます。今まで隠して生きていた人がカミングアウトできたり、他の国から自由を求めて移住を希望する人も増えるかもしれません。

実際、アジアの国の出身で、自分の国ではゲイだとカミングアウトして生きることは社会的な死を意味するので、自由のあるオーストラリアに来た、という移住者に会ったことがあります。自由が選べるのならば、自由な方がいいですよね。こうした動きはこれから増えていくのではないでしょうか。

オーストラリアはマルディグラのような大規模なイベント(しかも大企業がスポンサー)が行われる国なので、ゲイ・カルチャーの発信地となる街があったり、著名人や文化人にもLGBTQIを公表して活動している人がいます。ゲイというアイデンティティーを、絵画などのアート作品のテーマにしている人も少なくありません。

そうした意味でも、LGBTQIにまつわるカルチャーやアートが、今後オーストラリアで一層発展していくのでは、と思います。昔はゲイ・カルチャーといえば「虐げられる者の芸術表現」というカウンターカルチャー色が強かったような気がしますが、最近は「アイデンティティーの1つ」という意味での芸術のテーマに変わりつつあるようです。こうした流れが、オーストラリアでこれから拡大していくのかもしれません。

来年のマルディグラがどんな風に盛り上がるか楽しみです。

コメントを残す